ランサムウェア(Ransomware)と用語の変遷

火がついてしまったので、ついでにもう一つ。

ransom(身代金)とSoftwareを組み合わせた単語がランサムウェアransomware)である。
ランサムウェアの本来の用法は、無料体験版インストール後に存在しない脅威をちらつかせたり、また対処の必要もないようなどうでもいい問題を大げさにレポートし、製品版の購入を強要するソフトウェアの意味であった。
( ランサムウェア(Ransomware)とFUD(Semplice)参照)
Wikipedia英語版その他で以前より掲載されている、ソフトウェア本体とプラグインの関係でランサムウェアと称する用法は、2005年春の段階では実はほとんど皆無であった)


ところが2005年5月、ファイルを暗号化し元に戻したければ金銭を支払えと脅迫するマルウェアのPgpcoderが出現した直後より、Google検索数が一気に変動した。
一部のニュースポータルがこれをランサムウェアと呼称し、またWikipedia英語版にてもランサムウェアの解説として紹介された(所謂インチキソフトたるBogus wareは記載されていないのに)。
続いてのCryzipである。
大体2005年秋には検索エンジン上位表示サイトにて、ランサムウェア = 強制暗号化ソフトウェアとの解釈が大多数を占めるようになってしまった。


その後の日本国内での変遷が面白い。
ランサムウェアは、日本国内にて2005年春にはわずか数件(それも極めて短く意味が無い内容)しかヒットしなかったのだ。
ところが本日ランサムウェアを検索すれば、Googleにて10,800件だった。
(2007年1月17日追記:何故か、Web全体でも日本語のページでも702件まで急落した)


現在のトップ2と3は、SempliceとWired Newsの「押売りウイルス」が増加(Wired News)である。Wired Newsは丁度用語の過渡期に掲載されており、「強制暗号化ソフト」と「Bogus ware」がそれぞれ併記されている。


さて、Google検索の結果をずらずらと下に辿ってみよう。
「強制暗号化ソフト」の起こりは、1989年のAIDSである(名称に諸説ある)。
だがそんな古いマルウェアの情報はネット上には少ないし、検索してもそうそう見つかるものではない。McAFEE英語版ぐらいかな。
そのためか多くのニュースポータルでは何故か、具体的なマルウェア(AIDS)の名称を記載しなかったのだな。


そこで一つ、微妙なネタを。
Googleランサムウェアを検索すれば、多くの個人サイトやブログは、ただ単にニュースポータルの記事を丸ごと転載したか、もしくは文章・単語の順番を入れ替えただけであるのに気付くだろう。また個人に限らず、どこかの企業が運営しているサイトであってもだ。
少なくともAIDSを記載しているサイトは、日本国内には一つも存在しなかったし、海外でも少ない。


だから大多数のサイト運営者やニュースポータル運営者は、ランサムウェアがここ数年間は代金支払いを強要するBogus wareの意味として用いられたのを知らないし。
更には新しい用法(ファイル強制暗号化ソフト)で用いるにしたって、自分では経緯を全く調べていないのだ(特にIT Mediaよりの劣化コピーが多いような気がする)。


ランサムウェアを「身代金を要求するソフトウェア」と考えれば、製品の購入を強要する所謂インチキソフトウェア(Bogus ware)のみならず、ファイル強制暗号化ソフトウェアも含まれるのだろう。
だがランサムウェア イコール 強制ファイル暗号化ソフトではない。だが多くのサイトではそのように記載されている。
わずか1年間で単語の用法なり意味がこれだけ(慣用的用法が)変化したケースは、大変珍しいのではなかろうか。