政府よりユーザーを守ったように演出するGoogleと、その他大勢

Googleは今年3月にプライバシー管理の指針を大幅に変更すると発表したのだが、違和感を感じている。
背景として昨年米国司法省がオンラインポルノの調査目的で検索エンジン運営者に情報提供を要求した事例を取り上げ、政府による「不当な介入と調査」に備えるためだろうとの論調の記事が、あちらこちらのWebログやニュースサイトに掲載されている。
本当にそうなんだろうか?

国司法省によるログ開示請求を拒否したGoogle

USA Today(米国の全国紙)のWebサイトにては、Googleのプライバシー改善問題についての記事中にて、米国司法省によるログ公開問題についての記載を含んでいる。抜粋してみよう。

Google is adopting new privacy measures to make it more difficult to connect online search requests with the people making them — a thorny issue that provoked a showdown with the U.S. government last year.
While gathering evidence for a case involving online pornography, the U.S. Justice Department subpoenaed the major search engines for lists of search requests made by their users.
While Yahoo, Microsoft's MSN and AOL all complied with parts of the legal demand, Google fought the request to protect its users' privacy. A federal judge ordered Google to turn over a small sampling of Web addresses contained in its search index, but decided the company did not have to reveal the search requests sought by the government.
(和訳)
Googleは昨年米国政府との間で決着した困難な問題 - 人々によるオンライン検索エンジンリクエストに対して、より結びつけ作業を困難にするための新しいプライバシー対策を採用している。
オンラインポルノを含む訴訟への証拠集めのために、米国司法省はユーザーの検索リクエストリストについて主要な検索エンジンを召喚した。
Yahoo、Microsoft MSN、AOLは法的な要求に従ったものの、Googleはユーザーのプライバシーを守るために戦った。連邦判事がGoogleにサーチインデックスにおけるWebアドレスのわずかなサンプルを提出するよう命じたが、会社(訳注:Google)は政府に求められた検索リクエスト結果を明らかにしないと決定した。


USA Todayが取り沙汰したのは、米Googleが当局の検索情報開示要求を拒否、その真意は?(2006年1月30日 Enterprise Watch)の問題である。

司法省は1月18日、カリフォルニア州北部地区米連邦地裁に書類を提出し、この中で、Googleに対して検索エンジンに関連するデータの提出を求めた。米司法省は現在、「Child Online Protection Act」(COPA、児童オンライン保護法)の合憲性について調査を進めており、今回、参考資料とするためGoogleに協力を求めた。同省が要求したのは、1)過去1週間分の検索クエリのサンプル100万語、2)ランダムに抽出したWebサイトのURL100万件、と伝えられている。
Googleが要求を拒否したのは、1)訴訟の当事者ではなく情報を提出する必要はないと判断したこと、2)ユーザーのプライバシーを保護すること、などが主な理由という。同社の行動に対し、プライバシー保護や同社の社訓である“Don't be evil”(悪いことをしない)を守った点などに一般ユーザーの支持が集まっている。

米国における政府によるプライバシー侵害への世論

ポルノ話ではないんですが、背景となる話を一つ紹介する。
米国では911以来、パトリオット法による過剰な情報収集や市民への監視行為など、米国政府による行き過ぎた行いが問題視されている。
またブッシュ政権下での国家安全保障局NSA:National Security Agency)による、裁判所での許諾を経ない盗聴・通信傍受など。
(例としてブッシュ政権の令状なし通信傍受をめぐる課題(株式会社ポラリスセクレタリーズオフィス)

Googleが開示請求を断った、本当の理由は?

不思議な話として多くのWebサイトでは(それもかなり高い比率にて)、「Googleは利用者の検索クエリー結果を保護してプライバシーや信頼のために戦っている」的な解釈ばかりを目にする。
だが、少し待ってもらいたい。


司法省は「どこのIPアドレスよりエロい検索リクエストがあったのか」なんて要求はしていない。更にはプライバシーに配慮し加工したデータを引き渡せたはずであるので、ユーザーへの配慮との文言には疑問がある

I haven't seen the court documents, but I'm guessing Google could have handed over a list of searches that were entirely unassociated with IP addresses, times, cookies and registration information.
(和訳)
裁判所の書類を見なかったが、しかし私はGoogleIPアドレス・時間・クッキーと登録情報に完全に結びつかなない検索リストを渡せたはずであると考える。


米Googleが米司法省に反論,「データ提出はユーザーの信頼を裏切る行為」(ITPro, 2006年2月20日)にて紹介されていた「米司法省に対する反論」の文書をざっと読んでみた。
多少長いんですが、引用して紹介する。

The Demanded Data Contains Valuable Trade Secrets and Confidential Commercial Information
The Government has not and cannot dispute that Google has devoted enormous amounts of time and expense to protect its valuable trade secrets and confidential commercial information. Google's query and URL data is as secret as any data in the company and must be protected.
The Government acknowledges that Google asserts information about search queries is a trade secret, but says Google identified no reason why it would suffer harm from compelled disclosure. Motion, at 7. But that harm is plain, because a week's worth of query data reflects a sizable number of queries. Taken together (or even in significant groupings), those queries reflect a wealth of information about aspects of Google's business that, if revealed, would injure Google's competitive position. An analysis of Google's query data would reveal proprietary information such as the number of queries that Google can or does process, its capabilities of processing certain lengths and types of queries, its market share in the United States and other countries, and even the demographics of its users.
Competition with Google is fierce
Google's competitors could use Google's confidential query data to manipulate their search engines to accommodate Web users and ruqueries similar to Google's.
Like queries, from even a sample of URLs that Google has indexed, one could estimate, among other things, the size of Google's index; how deeply Google crawls in different countries or languages; and the ability of Google's crawl metrics to measure the reputation of pages or domains. Information about how Google crawls, or visits the different sub-pages on a website to collect the best URLs, is essential to Google's success. Google has developed its methods and technologies over many years and at considerable expense.
(和訳)
要求されたデータは、貴重な企業秘密と機密の商業的情報を含んでいる
Googleが貴重な企業秘密と秘密の商業的情報を守るために、膨大な時間と労力を捧げたという事に、政府は意義を唱えなかったしできないだろう。GoogleのクエリーとURLデータは社内にていかなるデータと比較したとしても機密であり、そして守られなければならない。
政府は検索クエリーに関するデータは企業秘密であるとGoogleは主張するのを認めてはいるものの、しかしながらGoogleは強制された公開により危害を被る理由を見出していないだろうと言う。だが危害なるものは簡単だ、何故ならば1週間のクエリーデータの価値はかなりのものとなるからだ。組み合わせ(もしくは重要なグループ分け)、それらのクエリーはGoogleの企業活動についての様相の情報における価値を反映し、公開されてしまえばGoogleの競争的地位を傷つけるだろう。Googleのクエリーデータ解析は、クエリーのある特定の長さとタイプの処理能力、米国とその他の国における市場占有率、そしてユーザーの人口統計といった、Googleができる・もしくは処理するクエリー情報を開示するだろう。
Googleの競争相手は苛烈だ
Googleの競争相手は、Webユーザーを受け入れGoogleと同様のクエリーを行うために、Googleの機密のクエリーデータを彼らの検索エンジンをうまく扱うために利用できた。クエリーのように、GoogleがインデックスしたURLのサンプルからでさえも、推察できたりするのだ。とりわけ、Googleのインデックスのサイズ - Googleクローラーが異なる国・もしくは言語においてどれだけ奥行きがあるのか、そしてページやドメインの評価を計測するGoogleクローラーメトリクスの能力などだ。Googleクローラーがどんな方法で、そしてどうやって最適なURLを選ぶためにWebサイトの異なるサブページを訪問するのかとの方法は、Googleの成功には必須のものである。Googleは何年にもわたって、かなりの出費により手法と技術を開発した。


本当に「プライバシーに配慮した結果」なんだろうか、「ユーザーの信頼を失うのを恐れた」のだろうか?
PDF中に記載されている「Googleよりの反論」は、Googleの技術流出を恐れる姿が赤裸々に描かれているではないか。


もちろん、企業として利益を損なうような要求に対して抗議するのは、おかしな事じゃないとは承知しているが。
何故にGoogleは、そして多くのWebサイトでは、「ユーザーを守るGoogle像」を演出したがるのだろうか。