ローマ法王の発言を捻じ曲げたNHK

昨日2007年5月14日、午後13時のNHKニュースにて、ひっくり返るようなタイトルのニュースが放映された。
いきなり「ローマ法王、資本主義を非難」みたいなテロップが表示され、びっくりたまげてしまったのだ。


ニュースの内容はローマ法王ベネディクト16世がブラジルにて演説した内容である。

今月9日から、初めてブラジルを訪れていたベネディクト16世は、13日、サンパウロ郊外で、5日間の訪問を締めくくるミサと演説を行いました。この中で、ベネディクト16世は、中南米で貧富の格差が広がっていることに触れ、「資本主義が貧富の格差を広げ、まやかしの幸福で人を欺き、麻薬やアルコールで人間の尊厳を失わせた」と批判しました。そのうえで、社会に道徳的な価値観を取り戻すべきだとして、カトリック教会が果たす役割の重要性を訴えました。ブラジルは人口のおよそ7割にあたる1億3000万人がカトリック信者という世界最大のカトリック国ですが、教会が離婚や妊娠の中絶を認めないなどその教えが生活の実態になじまないことから、代わりにプロテスタント系などの宗教が貧困層を中心に勢力を伸ばしています。ベネディクト16世は「中南米でのカトリック信仰が危機にひんしている」と述べており、今回の演説は、貧困層の信仰離れに歯止めをかけようとしたものと受け止められています。
5月14日 13時7分


やってくれましたね、NHK
これではまるでローマ法王が信者獲得のために貧困層受けするよう資本主義そのものを非難したように聞こえちゃうじゃないですか。

法王発言を曲解させたNHK

凄い違和感を感じ、おかしいぞこれは、と。
NHKがいきなり「資本主義を非難」みたいな話になるのは、流れが変だ。経済システムとしての資本主義のみならず、我々を取り巻く極めて享楽的な物質文明と、教会より人々を遠ざけるような社会の有り様に対する見解を述べられるのではなかろうかと。
そして、演説を持ち出しプロテスタントがどうこうとの記載も、腑に落ちない。

では、ちらっと他のニュースソースを見てみましょうか。

朝日はこのニュースについて極めて冷静で中立的。
と言いますか、法王の発言を最も冷静に分析しているようだ。

 ブラジルを訪問していたローマ法王ベネディクト16世は13日、サンパウロ郊外で開かれたラテンアメリカ・カリブ司教協議会で演説し、経済のグローバル化に伴い、貧富の格差が拡大していると警鐘を鳴らした。一方で、中南米での急進左派政権の台頭にも懸念を示した。法王は同日夜、5日間の滞在を終えてローマに向けて出発した。
 ロイター通信などによると、法王は資本主義、共産主義がともに人々を教会の価値観から遠ざけた、と指摘。「共産主義は経済と環境の破壊を招き、精神の破壊を残した」と批判するとともに「西側社会でも貧富の格差が増大し、薬物やアルコールが人間の尊厳の堕落を招いた」と述べた。
 規制緩和と市場原理を重視する新自由主義や、経済のグローバル化について「社会は、途方もない貧困と収奪と向き合い続けている」と懸念を表明した。
 一方で、「中南米は民主主義に至ったが、権威主義の懸念が残る」とも述べた。教会の姿勢にも干渉しているベネズエラの左派チャベス政権を念頭に置いたとみられる。
 中南米は貧困救済のために教会が積極的に社会、政治にかかわろうという「解放の神学」が育った土地だが、法王は以前からこの考えを批判してきた。この日も「教会は貧しき者の守護者だ」と述べながら、その役割は「政治的指導者でも社会運動でも経済システムでもない。それは神の愛、キリストの死と復活への信仰だ」と述べ、政治と距離を置く姿勢を強調した。


海外のFOX Newsを見てみる。

Like his predecessor, Pope John Paul II, Benedict criticized capitalism's negative effects and Marxist influences that motivated some grass-roots Catholic activists, remnants of the Liberation theology he moved to crush when he was a cardinal.
The Marxist system, where it found its way into government, not only left a sad heritage of economic and ecological destruction, but also a painful destruction of the human spirit, Benedict said as he opened a two-week bishops' conference aimed at re-energizing the church's influence in Latin America.
But he added that unfettered capitalism and globalization, blamed by many in the region for the deep divide between the rich and poor, gives "rise to a worrying degradation of personal dignity through drugs, alcohol and deceptive illusions of happiness."
(和訳)
彼の前任者であるローマ法王ヨハネパウロ二世のように、ベネディクト法王は資本主義のネガティブな影響と、彼が枢機卿の時に対処しようとした開放の神学の残存物たる草の根的カトリック活動の動機となったマルキシズムの影響を非難した。
ベネディクトは二週間の司教会議を開いた時より南米における協会の影響を活気付け、「政府の中に浸透したマルクス主義は経済に悲しい遺産を残し生態系(訳注:恐らく経済の誤記?)を破壊しただけではなく、人々の精神につらい破壊となった」と言った。
しかしながら彼は、「ドラック・アルコール・偽りの幸せの錯覚による個人の尊厳の退廃化に注意しなさい」と貧富の差の拡大に関与する野放しな資本主義とグローバリゼーションを非難した。

資本主義を非難したのではない、ローマ法王

NHKは堂々と、資本主義を非難とかそんなテロップを流した、だが違う。
彼の発言は、麻薬などの退廃的な文化を非難する目的である。

何故にNHKは、プロテスタントを持ち出したのか

南米とカトリックと言えば、キリスト教徒ならばピンと来るのが「開放の神学」である。
開放の神学とは、カトリック僧侶によるマルキシズムを背景とした政治活動を推進したグループらを指す。
教皇ヨハネパウロ二世なども、南米における解放の神学を非難している。


やや過激なタイトルの記事を転載しますが、開放の神学とはこんな感じ。
開放の神学は、プロテスタントによる活動ではないのだよ。

ここで「解放の神学」とあるのは、1960年代の第2バチカン公会議以降、主に中南米イエズス会士を中心としたカトリック僧たちの間で議論され理論付けられた、米国の帝国主義的な政策に反対し、独裁者や大地主とその手先ども(当然CIAが飼いならしている)の暴力と、主に米国の大資本による徹底した経済収奪によって貧困にあえぐ民衆の側に立って、社会正義の実現を図ることがキリスト者としての使命である、とする神学理論のことです。主に「バチカンリベラリストパウロ6世(1963〜78)の時代に中南米を中心に大きく広がりました。
「解放の神学」派は、単に「貧者の味方」というだけでなく、マルクス主義から階級闘争の概念を借用して理論武装しました。このため、反共に凝り固まるバチカン「保守派」(ここで「 」をつけている意味は後で説明します)は、この「解放の神学」派を『憎しみと暴力を増大させ階級闘争をあおり唯物論につながる』ものとして徹底して敵視しました。その急先鋒がジョセフ・ラツィンガー教理省長官(在職1981〜2005)だったのです。


さて、NHKよ。
何故にローマ法王の演説話にプロテスタントとの単語を持ち出したんですか?
asahi.comやFOX Newsでは、開放の神学という過激なカトリック僧侶らへの非難であるよう解説しておりますが。


常識的に考えれば、大体、イマドキだよ。
ローマ法王カトリックの最高権威者)がプロテスタントを非難・攻撃して物議を醸し出すはずがなかろうに。

教皇と法王

「ローマ法王」と「ローマ教皇」、どちらが正しい?(カトリック中央協議会)によれば、ローマ教皇が正しい用語とされておりますが。
ニュースサイトでの用例を取り上げたため、法王とこの場にては記載したしました。

NHK受信料に対する、良心的料金徴収拒否

との事で。自分は今後、NHKの受信料を払わない、と決めました。
未払いで訴えられようが騒がれようが、どうでもいいです。
良心的徴兵拒否と比較すれば、余りにもショボイ話と笑われそうですね。


まぁとりあえず、わが家にはテレビは無いんですが
食堂で昼に見るか、夜に彼女の家で見る程度でありますので。
将来テレビをもしも購入したらば、との話として。

更新履歴

同日、全面的に改訂。