タミフルによる副作用 - 異常行動を煽る記事への疑問

インフルエンザの特効薬として著名なタミフルだが、服用後に屋外に走り出してとかマンションより転落して死亡した子供の話がかなりセンセーショナルに語られている。
だが一部の記事には、どうも違和感がある。
東京新聞の山川剛史、竹内洋一氏による署名記事なのだが、第二の「あるある」に繋がるような予感がしたのだ。


元記事中では、(タイトルにも含まれているが)インフルエンザと診断されタミフルを服用した子供が、「怖い! 怖い!」と叫びつづけた話が冒頭にセンセーショナルな形で記載され。
東京新聞は一方的に、掲載した小学生の子供がとった異常行動をタミフルによるものと決め付けるスタンスを冒頭からとってしまった。
母親によるコメントを転載するとの形ではあるのだが、これにより記事全体にかなりバイアスがかかっており、恣意的な内容となってしまった。


最後に随分と変更偏向したデスクメモが掲載されている。何の関係があるんですかと。

<デスクメモ> タミフル新型インフルエンザに唯一効く薬としてもてはやされる。CNNはこの薬の特許はラムズフェルド元米国防長官が元会長を務めた米バイテク企業が持ち、氏は大量の株を保有していると伝えている。戦争だけでなく救命の世界でもちゃっかり稼いでいるとは。医薬問題はいつも利権のにおいがする。(蒲)


マスコミはニュースソースや記事の内容に対して中立的ではないのは、幾例かの事例で知っているんだけど。ここまで露骨に読者の印象操作を行うようなエッセンスを散りばめて、本当にいいの?と。

浜六郎医師による動物実験の解釈

記事中での「医薬ビジランスセンター(薬のチェック)」理事長である浜六郎医師の解説がよくわからない。

 ――タミフルと異常行動の因果関係をどうみる。
 死亡しないまでも、服用後に異常行動を起こす人はたくさんいる。異常行動による死亡例が未成年者で五例ある。統計学的に見ても因果関係は確実だ。タミフルが脳中枢の働きを抑制することは動物実験で確認されている。こういうことを総合すれば、非常に強い因果関係があると言える。

動物実験での脳中枢の働きがと言い出してしまうと、あるあると同レベルになってしまいませんかね。
健常なヒトに投与したらばどうなるのかな。薬剤に対する反応は、動物種によって激しく異なるものだし。
(ちなみに人間には鎮静的作用を及ぼす薬剤が、サルでは狂乱興奮な状態を引き起こすなどの例があり。動物実験反対を訴える団体では、動物と人間では全く違う反応を示す事例を幾つか紹介し、動物実験の意義を問うている)


また若齢ラットの脳関門について論じ疑問を呈している方が居るので紹介する。

いつからタミフルが疑われたのか。
これはNPO法人「医薬ビジランスセンター」浜六郎医師が、日本小児感染症学会でタミフルによる異常行動を発表した事からマスコミが取り上げ始めました。
氏は動物実験で、タミフルが赤ちゃんラットの脳に成人ラットに比べ3000倍蓄積された事をデータとして発表なさっています。
しかし、赤ちゃんラットなら血液脳関門(BBB)など未熟なはずで、脳に移行しやすいのは当たり前のような気がします。これが証拠というのは疑問です。

反論者たる浜六郎医師による解析の謎 - 異常行動の発生数

参考とされる資料は横田俊平(横浜市立大学大学院医学研究科発生成育小児医療学教授)による厚生労働科学研究費補助金平成17年度分担研究報告書「インフルエンザに伴う随伴症状の発現状況に関する調査研究」のようだ。
「資料4-7-1「薬剤使用状況別の臨床症候の経時的な発現数(%):タミフルと異常行動」を見て、どうもなぁと。

私がそのデータを分析した結果では、発症初日の昼には、服用した方が何倍もの異常行動を起こす計算になった。

(とは言え、第1病日(発熱した初日)昼での異常行動発生は、薬剤未使用で0.5%(n=10)、薬剤使用で1.9%(n=12)(内訳として使用開始と既開始が2.0%(n=6)ずつであるし、サンプルサイズが妙に少ないし)。

厚労省の報告書は、タミフルの影響が少なくなる二日目以降も一緒にしている。
異常行動は一回目か二回目の服用から数時間以内が最も起きやすいので、そこをきちんと解析しないと意味がない。

異常行動は薬剤未使用区にては、第1病日夜にもっともパーセンテージが増えているようですが、どう読んだら良いんでしょうか。

タミフル10代投与中止の波紋(2007年3月25日追記事項)

厚生労働省は3月20日、10代への使用中止を求めた。

インフルエンザ治療薬「タミフル」の使用後に異常行動を起こした事例が新たに2例あったことが判明し、厚生労働省は20日、10代への使用中止を求める緊急安全性情報を出すよう、輸入・販売元の「中外製薬」(東京都中央区)に指示した。
厚労省ではこれまで、タミフルについて「安全性に問題はない」としていたが、対応が必要と判断した。ただ、10歳未満については中止は求めず、これまで通り保護者に注意を呼びかけるとしている。

直後に、10歳に満たない乳幼児でも異常行動が起きているから全面的に中止しろみたいな論調の書き手が出現したんだけど。


事態をいきなりひっくり返す、ある意味でショッキングな飛び降り事故が報じられた。

西日本で先週末、インフルエンザにかかった男子(14)が、自宅2階から飛び降り、足を骨折していたことがわかった。タミフルは服用していなかった。
主治医によると、この男子は15日、38度の熱があり、翌日いったん熱が下がったものの、17日未明に自宅2階から飛び降りたとみられ、玄関先で倒れているところを発見された。
病院搬送時に熱があり、検査でB型インフルエンザに感染していたことがわかった。男子は「夢の中で何かに追われ、飛び降りた」と話しているという。


タミフル反対派を区分すると、大体はこんな感じになる。
1)タミフルとは無関係に、異常行動が起きる事例の存在を無視したもの
2)インフルエンザの高熱で異常行動が起きるのは知ってても、「タミフルを服用しなければ飛び降りなんてしなかったはずだ!他の異常行動とはレベルが違う!」と主張するもの


タミフルを服用していなかった14歳男子の飛び降り事件が起きた事で、「異常行動のレベルの違い」とやらの論拠は崩壊しましたね。
どうなるんだろうかと。

これについてNATROMさんなる方が端的に論じていたので、紹介したい。

「服用していない患者の飛び降り例はこれまであまり報告がない」というのは単に注目されていなかっただけの可能性がある。ウイルス感染症による行動異常については、タミフル以前から知られていたわけで。問題はタミフル使用群と非使用群に差があるかどうかである。

タミフル投与後の飛び降り事件を解明するのは、実は容易(2007年3月25日追記事項)

前述の「タミフルを服用しなければ飛び降りなんてしなかったはずだ!他の異常行動とはレベルが違う!」との主張を裏付けるには、どうデータを収集すべきなんだろうか。


「飛び降り」や「交通事故につながるような行為」を、「インフルエンザにより起きるタミフルと無関係な異常行動」と区別するには、どうしたらば良いんだろうか。
「異常行動のレベル」なんて言われちゃえば、困るよね。
言い換えると、病院や家族を調査の場とした調査では、既に客観性が失われたデータしか得られないのだから。


倫理的・また遺族感情の問題もあり、実現は難しいような気がするんだけど。
客観的なデータ収集の手段そのものは、大変簡単なのだ。
「単なる事故や自殺」と扱われてしまうマンションよりの飛び降りに際して、検死の段階でインフルエンザに感染していないか、そして通院し処方されていた薬剤を飲んでいたかと血液中の濃度を調べればよい。