国家公務員の給与は本当に高いのか?批判記事のおかしさ

雑誌などの記事ではよく、公務員の給与が高すぎるとか、またパートでこんなに頑張っているのにとの「市民の声」とやらが掲載されている。
先日読んだ週刊誌があまりにも政治臭が酷く、不思議なものだった。
公務員でないものがアレコレと書くのは妙なものなんだけど、まぁとりあえず。

国家公務員の仕組み

まずー給与勧告の仕組みと本年の勧告のポイントー(平成18年8月)(人事院)をダウンロードし、これに基づいて考えてみる。
国家公務員には一般職と特別職があるが、こんな感じ。

  • 国家公務員(約93.3万人)
    • 一般職(役62.8万人)
      • 現業国家公務員(約30.1万人)(一般的な公務員はここ)
      • 日本郵政公社職員(約26.2万人)
      • その他(約6.4万人)(大部分は試験研究機関)
    • 特別職(約30.4万人)(大多数は自衛隊員)


国家公務員の給与は人事院勧告に基づくのだが、その対象となるのは非現業国家公務員だけである。
人事院のPDFでは「行政職(一)職員の平均年間給与 632万3千円(平成18年)」とある。


行政職(二)の数は無視できるほど少ないのでこの場では扱わない。
また日本郵政公社職員はすぐに国家公務員ではなくなるのだし。
特別職(国会議員や自衛隊員など)の給与は多少高くてもいいような気もするし庶民感覚からは何の接点も無いのでこれも除外して考える。
地方公務員の給与は国家公務員の給与より反映されるので、ここでは国家公務員の給与のみを扱えばいいだろう。

国家公務員のクラス分け

国家公務員(行政職(一)は公務員試験で採用される。
国家I種(所謂キャリア)の難易度は、一部上場企業よりもはるかに難しい、と思う。
国家II種は大卒程度とされているが、難易度は大体一部上場企業と同程度だろう。
国家III種になるといきなり簡単になり、高卒程度とされ、普通に高校に通って勉強しているならば大体誰でも合格できる程度の難易度だ。


国家公務員(行政職(二))は選考採用となる。
「行政職(一)はホワイトカラーで行政職(二)はブルーカラー」との解説がネット上には散見されるが、これは間違いだ。
行政職(二)つまり行政職俸禄表(二)が適用されるのは、運転手や警備員など(技能職)である。だが全てのブルーカラー職員が行政職(二)なのではないし、何故かブルーカラーの一部は行政職(一)である。
ここらへんのカラクリが面倒なんだけど、行政職(一)は行政系のみではなく技術系(土木とか)を元々含む。また行政職(二)はよほど馬鹿な事をやらなければ行政職(一)にいずれクラスアップされるのだ。


給与は勤続年数にもよるんだけど、大体はこのようになる。
国家I種採用者(行政職(一)) > 国家II種採用者(行政職(一)) > 国家III種採用者(行政職(一)) > 技能職採用者(行政職(二))

人事院勧告と官民給与比較-ラスパイレス方式は社会主義

現業国家公務員の給与は、人事院が官民比較を行いその結果を元に人事院勧告を出して決まる。
このラスパイレス方式というのがかなりクセ者であって、実はそれほど公平でも公正でもない。


給与を比較する対象となるのは、従業員50人以上の民間企業となる。
50人以上ならばカバー率は64.8%、100人以上ならばカバー率は55.0%となる。


人事院によれば「仕事の種類、役職段階、勤務地域、学歴、年齢を同じくする者同士の給与を比較」となっているんだけど、これがクセ者だ。
学歴と括ってもただ単に大学を卒業したか否かとか、そんなものだ。
(採用後の昇格では旧帝国大学出身者でも聞いた事もない地方私立大学でも、同じ「大卒」である)
「仕事の種類」もこれまたおかしな話で、同じ事務職員であってもバリバリと他の職員の3倍の仕事量をこなせるような人とかはどうするのよと。


異論もあるとは思うんだけど。そもそも小規模な民間企業では、国家I種・II種試験に合格できるような人材は少ないよね。
だがどこかの政治団体とか雑誌では、「全ての労働者の給与と比較してどうこう」とのたまう。
そうなっちゃうと今度は、優秀な人材は公務員なんて志望しなくなるのは目に見えているし、日本はあっけなく沈没しちゃうだろう。
仕事の質や従業員の質を無視するのって、北朝鮮の工場とか中国の何とか公社みたいだよね)
(なお国家I種採用者は最初から3級(係長クラス)となるので、キャリアなどではその辺で調節できているのかなぁ)

過去に一部の公務員は、不当に高い給与を得ていた - 特別昇給・昇格の乱発

いきなり「不当に」とか扇情的な言い回しをしてしまったんだけど、まぁ。
国家公務員に限らず民間企業でも似たような例はあるんだけど、現在の55歳より65歳(もう定年してるけど)程度の層は、分不相応な給与を得ている。
(年配の公務員が見たらば怒り出しそうなんだけど、すいません)


公務員の給与は役職段階に基づいて級が、在級年数により号が決まる。
つまりある級になったらば、毎年毎年「号」が上がる。同じ級でも号が違うと給与には差があるのだ。
わかりづらいよね。人事院のPDFではこのように記載されているんだけど、実態はやや違う。

  • 1級(係員)
  • 2級(主任)
  • 3級(係長)
  • 4級(課長代理・係長)
  • 5級(課長・課長代理)
  • 6級(部長等・課長・課長代理)
  • 7級・8級(部長等・課長)
  • 9級・10級(部長等)

同じ課長でも5級から8級までかなりの振れがあるのは、勤務先の違いだ。地方の出先機関での部長は、本省の係長と同程度の権限なり発言力だったりする。


ここでまたクセモノな話が湧いてくるのだが。
現在の60歳以上ぐらいの層は、実は能力や実績とは全く無関係に、無駄に高い給与を得ていた。
中卒高卒で卒業直後に国家公務員になったこの年代は、よほどアホウな事件でも起こさない限りは着実に(勤務実績と無関係に)級が上がったのだ。
具体的に書くと定年前には最低でも5級、最近死去した知人などは文書なんてほとんど作成できなかったにも関わらず8級だった。月給大体50万円台ね。


当然ながら、全ての高年齢層が「仕事が全くできないにも関わらず無駄に高い給与を得ていた」のではないよ。
ただ単に「職場によってはある時期には本人の能力や経歴に関わらず、特別昇格が乱発された時期があった」のだ。
その辺の事情とか実態は、官民問わずに似たようなものなんじゃないかなぁ。

一部の公務員は、不当に給与が安い - 女性差別

国家公務員には「3級昇格問題」なるものがある。
わかりやすく書くと同期の男性が5級6級またそれ以上になって定年退職を迎えるのに、女性は3級に昇格させてもらえず給与なり昇格で多大な差別を受けるとの問題だ。
お役所に行ったらば、廊下に「3級問題粉砕!」などの張り紙を実際に見た記憶がある。
最近は男女共参画社会がどうたらなどと唱えられるためか、ある職場の2級に長年留められた女性が幾人も丸ごと3級になったとか、面白い話がチラホラと公務員に就職した方より聞いたりする。

パートさんの存在

パートと言っても多少イメージがずれるんだけど、正社員的な仕事をしている方が公務員には居る。
臨時任用職員とか任期付採用職員と呼ばれる人らはWikipediaとかでは、ある期限に限られて再雇用はされないとか書かれているけど、場合によりけりらしい。詳しい事情はわからないんだけど。
(Lucaさんの知人は20年以上も臨時職員として働いている)


パートさんの給与はスーパーでお惣菜を並べるようなパートさんとほとんど同じである。疑うならば職安の求人票を見てくればよいだろう。
先日公務員と飲み会で一緒になった際に聞いた悲惨な話として、英検1級で通訳とかがバリバリできる女性が、就職難のためにパート採用されたものの、時給が700円台なのだそうだ。


よく雑誌などで市民の声とやらが掲載されている。その際には何故かパート主婦の意見とかがわざとらしく掲載される事例が多い。
だから一言だけ、暴言を言わせて下さいな。
「民間のパートと公務員のパート給与はほぼ同額であり、(パートを除く)公務員の平均給与と無理矢理比較して公務員の給与が高いと騒ぐ記事は、プロパガンダか嘘だよね」


ちと全く逆の話となりますが。
正社員とパートは同じ仕事をしているように見えても、積み重ねた経験の重さは全く違うものだし。いきなり正社員とパートの給与を比較し「同じ仕事をしているんだからどうこう」と言い出すのは、あまりにも乱暴な話だとは思うよ。
だけども正社員格である国家III種とパートさんは業務の内容はそれほど変わらないのだし、かなり大きな格差が存在するのはどちらかの給与が明らかに高すぎるか低すぎるのだろう。

在職年数のみで給与が決定されてしまう不条理

自分が知る限り最も不条理な給与体系は、大学の先生である。
教育職俸禄表では1級(教務職員)・2級(助手)・3級(講師)・4級(助教授)・5級(教授)である。
学生の頃に酒の席で愚痴られ興味があったので聞きまくったが、世間のイメージと実態はかなりかけ離れているのだ。


先に級と別に号なるものがあり、号は在級年数により決定されると記載した。
単純に国家公務員になってからの年数と、教授になってからの年数。これで給与が決定されるのだ。
つまりね。
賞を幾度も受賞しているような教授であっても、給与は業績とは全く無関係に決定される。
それとは逆に、全く研究活動を行わず遊んでいる教授であっても、毎年無駄に給与は上がるし。場合によっては民間から採用された教授よりもはるかに給与が高い。


定年間際の国立大学教授の月収は、大体50万ちょいから60万円程度らしい。
私大の教授で同程度の業績がある人物と比較すれば、半分以下となる。
この金額はイメージとはかなりかけ離れているのではなかろうか。

最後に一言だけ暴言を

公務員であっても単なる作業員の給与がメチャクチャ高いと叩かれているのは、民間との比較では何となく納得はいくんだけど。
現業職公務員、それもある程度以上の能力がある層が得ている給与は、能力レベルで単純比較すればかなり安いんではなかろうか。


自分が学生の頃には、公務員は給与が安く可哀想な奴らだとされていた。
「公務員?はぁ?んな安月給は嫌ですよ」みたいな学生が増えたならば、それこそ景気回復と雇用が回復したと言えるんじゃないだろうか。