Windows98やNT4は現役 - 企業資産たるソフトウェアと更新の代価

昨年ネット上で調べ物をしてたらば、どっかの質問掲示板にてかなりセンシティブなやりとりを目にした。
うろ覚えなんですが。会社で使っているパソコンが何かに感染した助けてくれー!って投稿をした方に対してさぁ。
「MSのサポートが終了したのに使い続けるのは犯罪だ」まで言い切っちゃう方が引っかきまわし、どーしょうも無い状態になっていたのだよね。
そして場の雰囲気の悪さを改善させようと、穏健派(?)が「いやいや、スタンドアロンで使うならば」と軟着陸させようと苦慮するものの、失敗してて。


「あっけなくウイルスなりマルウェアに感染しうる環境は、誰かに迷惑をかけるだけだ、悔い改めよ」的な発言も、それほど間違いではないし。
単純に誰かを「はぁ?」って切り捨てられるような次元の問題ではない。
いずれの立場も、よく理解できるよ。


IPAは2007年5月、Windows98の利用について警告っぽい内容を掲載した。
要するに、サポートが終わったOSなんて危険じゃないかと。

 現在、一般で広く利用されている PC の OS (オペレーティングシステム)として、Windows XP、2000、98/Me、MacOSLinux 等がありますが、Windows 98/Me は2006年7月に製造元のサポートが終了しています。
 しかし、当機構のウイルス・不正アクセスの相談受付状況を見ますと、Windows 98/Me の製造元によるサポートが終了した後でも、表1のとおり Windows 98/Me 利用者からの相談件数の割合は減少しているものの、まだ1割弱の方から相談を受けています。また、当機構のウイルスの届出受付状況をみますと、Windows 98/Me の製造元によるサポートが終了した後でも、表2のように Windows 98/Me のユーザからの届出が2.5%ある状況です。


少なくとも一般的な消費者がだ。
ネットに接続しメールを送受信し、誰かからもらったファイルを開き、どこかにそれを配布するならばさ。
Windows 9x系OSはリスキーであるのは間違いではない。
(古いバージョンのMS OfficeAcrobat Readerや一太郎の問題はこの際おいて置く)
付記するならば、古いWindows OS上での動作を保証するウイルス対策ソフトウェア製品は、それほど多くはない。
だから古いOSでは二重三重の苦しみ - 脆弱なOS、有用な対策ソフトウェアが利用できない、安全なバージョンのサードパーティ製品が利用できないに見舞われる。


だが個人消費者によるエンドユースを前提としないならば、事情はかなり異なる。


資産たる、ソフトウェア - そして更新できないシステム
予め断りを入れておきますが、Lucaさんは財務会計とか企業会計上の減価償却には詳しく無い。
変な事を書いてたらば、その都度指摘していただきたい。


企業が所有する資産(この場合は機械ってのは)それぞれ耐用年数が異なるし、減価償却の年数も異なる。
建設業ならばある重機は耐用年数5年とされて、ある機器は8年。
だけども見逃しちゃならない点は、資産価値としての耐用年数と実際に利用できる・または事実上利用し続けなければならない年数には、大きな乖離が存在するって点なんだ。
購入後10数年経った重機であっても、新規に購入するにはかなりいい金額であるため、新規購入なんて難しいし。
所謂耐用年数なんてものは、実際に現場で利用するに際しての実態は反映できてはいない。


じゃぁ、パソコン話に戻りましょうか。
ある工作機械を制御する目的のパソコン、ある計測機器を制御するシステムに組み込まれているパソコン。
「システム」ってのは、どこからどこまでをどう含む概念なのかってのは、やや難しいんですが。
これらの耐用年数ってのは実態としては、OSやソフトウェアの陳腐化や、個別のパソコンの経年劣化のみが判断材料とはならない


では、チラッと具体例を。
ある機器はシステム全体を含めて1300万円します。
これを制御するためのパソコンと専用ソフトウェアがあったとする。
機器本体はかなり堅牢でそうそう壊れないんだけどさ、制御用のPCのOSはNT4だったりする。
USBが使えないためにデータファイルのやりとりは難儀で、CD-Rに毎回焼くか・もしくは個別に独自に増設したMOドライブでやりくりするしかないとするね。あー、不便だ、面倒だ。
NT4のマシンはSCSIは代理店がサポートしているんだけど、ATA接続のストレージはサポート対象外なため、バックアップソフトウェアの導入も難しい、リムーバルリムーバブルメディアから起動するユーティリティソフトウェアも難しい。
でもさ。
色々とグチと悪口を言いつつも、使い続けるしかないのだよ
何故かって?
これをWindows XP Professionalの端末に入れ替えるには、制御用ソフトウェアの更新・端末の更新・営業マンの出張料金や作業で200万円かかるのだ。
200万円もの金額を、そうそう右から左にポンポンと出せますか?
「頑張れば古い機器でも利用できるのだろう」と一言突っ込まれれば、どーですか?
そんな稟議書って、そうそう通るものですか?


ある計測機器のシステム一式はかなり旧式化しており、制御用ソフトウェアはMS-DOSの時代のものです。
これをWindowsXPで利用できるようにするためには、ソフトウェアだけで50万円かかります。
50万円ってここで書きましたが、既存のデータをどーするのかと考えるだけで相応の時間なり手間もかかるし、習熟度を上げるための時間も(人件費ってのは無料じゃないんだから)無視できません。


前述の資産管理と減価償却話に戻る。
減価償却が済んだ・またはあと何年ってのは、ある意味で机上の空論なもので。
現場では古いシステムや機器を使い続けるしかないので、現実的な寿命は所謂「コアな部分たる機器(ある意味で最も価格が高いパーツなり機器)」がいつまで稼動できるかにより左右されちゃうものなのだ。

最新のOSを、と言われてもさぁ

前述の事情として、企業としてはそうそう機器の買い替え・システムの一部のバージョンアップってのは、容易ではない。
もちろん、セキュリティ対策なるものが幅をきかせている現況、全く対策しないって訳にもいかず - せめてもの「気持ち」として、スタンドアロン(LANに接続せず)にしたりするのだよね。


これが万全であるなんて、思っちゃいませんよ。
ネットワークワームにLANが汚染されたらば確実にドボン、USBを利用するストレージ機器は使えない、セキュリティ対策ソフトウェアも利用できない。
で、忘れちゃいけない点として。
三重苦以上の難儀さはあるものの、新規システムに更新できるだけの予算なんて、そうそう獲得できる?


予算なんてものは、尽きぬ泉ではない。
だからボクらは、古いOS、脆弱性が残るソフトウェアを利用し続けなければならない場合もあるものだし。
せめて他所様にご迷惑をかけないよう、セグメントを切り離し。
「USB使えないぞぉ!何とかしろぉ!」との罵声に「じゃぁお前が200万円払えよ」との反論もせず。
毎年陳腐化するOSやシステムの保守を続け、まるで神官のように仕えるのだ。


とりあえず、最後に
やむ終えぬ事情で古いOSを・またはサービスパックを不具合回避の目的で適用できずに利用し続けているような方々ってのは、稀有なものではないし。
それに対して「えぇっ!まだ何チャラを使ってるんですかぁ!」とか「第三者に迷惑を(以下割愛)」とか唱えるのは、コンシューマーと言うか一般的消費者のみを対象とするならばともかく、そーじゃない立場の方にはいささかカチーンって来るものがあり。


所謂回答者ってのは、資格も試験も無い存在ではあるんですが。
場数を踏む上で色んな方が居るのだなぁと、知ってもらいたいなぁと。